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若手地銀マンの安定ライフ⑥~融資窓口編~

「全国転勤なし」「高給」「地域No.1ブランド」「絶対につぶれない」―地方に根ざし、安定した(加えて、ちょっとだけ良い)生活を送れる就職先として名高い、地方銀行。しかし、銀行で具体的にどのような仕事をするのかについて、具体的なイメージを持てる方は、実は多くないように思えます。
このシリーズでは、新卒で茨城の地方銀行に入社した筆者が、安定した生活を得るまでのストーリーをご紹介していきます。


■前回までのあらすじ
休暇明けより突如窓口へのポジションチェンジ。番号札をもらい忘れて回収しにいったり…ドタバタやりながらも、ようやく慣れてきたところに、「明日からプロパー窓口な」との指示。
今度はまた別の業務か・・・そもそもプロパーってなんだ・・・?

 


―「今日中に担保の評価替え4本やっといて。忙しい?いやできるっしょ。それやんないと今月実行間に合わないから絶対よろしく」―


銀行の本業と言えば「金貸し」。預金として預かっているお金を、お客様に貸し出して、その対価として、金利収入を得ています。筆者が務めていた銀行では、全体の売上に対する利息収入(貸出金利息)が5割程度を占めていました。
貸出には大きく2種類あります。法人向け融資と、個人向け融資です。
法人向け融資は、その多くが①プロバー融資、もしくは②保証協会付融資に分類されます。
①プロパー融資とは、銀行単体で与信(貸したお金がちゃんと帰ってくるか)判断を行い、金利、金額、期間等を設定し融資する、いわばオーダーメードの融資です。リスクを全負担するかわりに、お客様によって、またその用途によって、ある程度自由に融資をすることができます。
一方、②保証協会付融資とは、県の信用保証協会(日本政策投資銀行をバックにもつ、公的機関)に間に入ってもらい行う融資です。保証料を信用保証協会に払う代わりに、もしお客様が、「お金を返せない!」となった際、保証協会が損失の一部を肩代りしてくれる、という仕組みを組むことで、銀行はより高リスクな貸出を行うことができるようになります。政府のバックボーンのもと、プロパー融資では危険で貸せないお客様にも貸出を可能にした仕組みといえます。そのかわり、金利・期間等の融資条件は定型化されており、型にはまらない融資は受けられないという弱点もあります。
規模の小さい法人先、新たに設立したばかりの先、若しくは財務状況が健全でないお客様には、まずは協会付き融資、という形で提案することが多いように思えます。


上記の法人融資取引関連で、プロパー窓口担当の役割が発生してきます。プロパー窓口の仕事は大きく3つあり、


a.融資に係る事務作業
b.窓口での融資申し込み対応
c.お金を予定通り返せなくなってしまった先(管理債権先)の対応


があります。

a.融資に係る事務作業とは、法人担当がまとめてきた融資案件に係る事務作業のことです。
例えば、「担保の評価替」という業務があります。銀行がお客様に融資をする際、多くの場合は、会社及び代取の資産(土地建物など)を担保として差し入れてもらいます。何の担保かといえば、会社が「お金返せない!」という事態に、銀行が「わかった。じゃあお主の土地とか全部売って、貸した金返そうや」と言って債権を回収するためのものです。担保に入れる土地建物等は、時価や面積を元に担保価格(売ったらいくらになるか)を計算し、その金額を見ながら銀行員は、いくらお金を貸せるか検討します。担保にとっている土地や建物に何か変化があった場合には(土地価格が下がった、火事で燃えた等)、再度評価を行い、ちゃんと保全が効いているか(売っても十分な金になるか)を確認しなければなりません。このような担保の再評価にかかわる事務を「担保の評価替」と呼びます。
私の勤めていた銀行では、本部に担保の評価を専門に行う部署がありました。よって、営業店での事務は、担保評価に必要な書類を準備し、本部に送ることでした。必要な書類の多くは、土地建物の登記簿謄本、公図、地積測量図など、法務局のHPからダウンロードできる書類です。もし担保に入れている資産が多い場合には、その数は100枚以上になることもあります。非常に時間がかかるので、法人営業担当の人から、プロパー窓口のところに“お願い”が来ます。


「今日中に担保の評価替4本やっといて。忙しい?いやできるっしょ。それやんないと今月実行間に合わないから絶対よろしく」


法人営業担当の方は、きっと自分には想像できないスピード感で働かれています。その方の期待に応えるためには、自分の業務がいくら溜まっていようとも、最優先にやるしかありません。インターネットパソコンの前に座り、無心に資料をダウンロードするのも、プロパー窓口の立派な務めです。

 


―「さっきのおじいさん年担?お疲れさま。クレジットカード獲った?あ?なんで獲らないの?ただの時間の無駄じゃん。目標あるんだから絶対セットしろよ」―

 

b.法人先には基本的に営業担当が周り、融資の話を持ってきますが、今まで取引の浅い先、また新規に開業を考えている先等、お客様が直接窓口に来店し、融資の相談を受けることがあります。
また、お金を借りようとするのは、法人の方だけではありません。仕事を引退したおじいちゃんおばあちゃんが、お金を借りに来ることもあります。「年金担保貸付」という制度をご存じでしょうか。おじいちゃんおばあちゃんの年金証書を預かる代わりに、年間の年金受取額の範囲内で(最近制度が少し厳しくなりましたが)お金を貸してやろう、という仕組みです。「歯医者のためです」「農機を買うためです」「他の借金を返すためです」「“生活費”だよ。何に使うか?そんなの聞くんじゃねえよバカ」・・・いろいろな理由で、じじばばが窓口に押し寄せてきます。
この年金担保貸付(略して年担)は、「独立行政法人福祉医療機構」なる機関が運営しており、銀行はあくまで代理店として事務手続きを受け付ける立場にあります。代理店として事務を受け付けるため、誓約書等、書類も必要以上に多くなります。相手がおじいちゃんおばあちゃんなので、記入にも時間がかかります。2時間以上かかることもあります。さらに悲しいことに、この手続きを受け付けたところで、営業推進上、なんの得点にもなりません。「時間かかるくせに、1円たりとも支店に収益をもたらさない」業務として、銀行員には忌み嫌われています。忌み嫌われている業務だからこそ、若手の窓口担当がこの業務を行うのは必然でしょう。

 

一日に年担を2件捌いたある平日、業後に先輩が声をかけてくださいました。


「さっきのおじいさん年担?お疲れさま。クレジットカード獲った?あ?なんで獲らないの?ただの時間の無駄じゃん。目標あるんだから絶対セットしろよ。」

 

「いや、おじいちゃん絶対クレジットカード使わないでしょう・・・」


などとは口が裂けても言えず、ただ「申し訳ありません」と頭を下げることしかできませんでした。
営業店の推進項目の一つに、クレジットカードの販売があります。多くの銀行は、「○○○○J△Bカード株式会社」「株式会社◇◇V●SAクレジット」なる子会社を持っています。クレジットカードを売るとその子会社に収益が入り、銀行グループ全体での業績が良くなるので、「客がいっぱい来る銀行でも推進しろや」、という話です。クレジットカードのノルマは、営業店に、そして各人に振られます。営業担当のみならず、窓口担当にも当然のようにノルマが振られます。預金窓口担当は新規口座作成客に必ずセット、住宅ローン窓口担当は金利割引の条件みたくセット、そしてプロパー窓口担当は、じじばばでも、窓口に来る客には誰にでもセット・・・となります。お客様が実際にカードを使おうが使わまいが、そんなもの関係ありません。「初年度無料ですから!1年たたないうちに解約すればいいですから!」は鉄板セールストークです。


プロパー窓口が担当するお客様といえば、上記cの管理債権先、もしくは年担のお客様がメインです。管理債権先は役席の方が担当されていたため、筆者のメインターゲットは年担のおじいちゃんおばあちゃんしかいませんでした。その日から、彼らが獲物と化しました。年担の手続きを進めながら、お客様と話しを深め、タイミングを見計らってカードをセールスしました。心の奥に、何かがこびりついている感覚を抱えながら・・・

 


―「本日の実績は以上です。最後に支店長、何かございますか」―


時は11月半ば。事務作業も覚えてきて、クレジットカードのセールスも無心で行えるようになってきた頃。ある日の夕会のこと。
副支店長「本日の実績は以上です。最後に支店長、何かございますか」
支店長「ご苦労さまです。本日は一つ報告があります。・・・とても残念ですが、営業のSさんが今月いっぱいでご退職となります。それに伴い、筆者さんには営業に入ってもらう予定です」

 

・・・???

 

~次回⑦ローン営業編Ⅰへ続く

 

※この物語はフィクションです。