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若手地銀マンの安定ライフ⑦~ローン営業編Ⅰ~

「全国転勤なし」「高給」「地域No.1ブランド」「絶対につぶれない」―地方に根ざし、安定した(加えて、ちょっとだけ良い)生活を送れる就職先として名高い、地方銀行。しかし、銀行で具体的にどのような仕事をするのかについて、具体的なイメージを持てる方は、実は多くないように思えます。
このシリーズでは、新卒で茨城の地方銀行に入社した筆者が、安定した生活を得るまでのストーリーをご紹介していきます。

 

■前回までのあらすじ
11月半ばの夕会。突然のSさん退職宣言。そして、営業への移動・・・頭が追い付かない・・・

 


―「先輩として言っておく。これからもっと辛くなるぞ。うちらみたいな、何事もまず頭で考えちゃうタイプは間違いなく辛い」―
今回退職することになったS先輩は、6年目の法人営業担当でした。2年目から金融商品と住宅ローンの営業をスタート。途中、社内の審査部トレーニー制度に合格。半年間、本部にて法人の与信審査のノウハウを学び、晴れて法人営業担当として、この支店でデビュー。順調な銀行員生活を送ってきたともいえる方でした。
私と同じ高校の先輩ということもあり、熱心に指導をくださっていました。なのに、なぜ突然・・・。
表向きの理由は、「親の体調が悪く、より近くで面倒を見れる、かつ勤務時間がフレキシブルな仕事に変えざるを得なかった」というものでした。
なんとなく腑に落ちなかった私は、次の日にこっそり聞いてみました。

 

「実際、どうしたんですか」


「普通に転職。出版社。給料上がるんだぜ。やっと営業の劣悪なシマから抜け出せるよ」


「・・・営業、どんな感じだったんですか」


「次長には机を蹴られるし、隣のK先輩には毎日詰められて、半分鬱気味になるし・・・実際、病院に行ってたりもしたんだ」


「そんなにひどかったんですね・・・」


「先輩として言っておく。これからもっと辛くなるぞ。うちらみたいな、何事もまず頭で考えちゃうタイプは間違いなく辛い。お客さまにお願い営業するとき、頭がブレーキかけちゃうんだよな。そこで余計なこと考えずお願いできる奴の方がそりゃ実績があがるよ」


その後、その先輩は2週間近く、有給消化期間に入り、支店に姿を見せませんでした。12月の最終日だけ出社し、荷物をまとめ、その日でさよならとなりました。一応、飲み会はありましたが、プレゼント等もあまりなく、寂しい雰囲気だったのをよく覚えています。

 

 

―「・・・そこで奥様、住宅ローンの返済のご予定表に見覚えはございますでしょうか」―

 

S先輩の穴を埋めるべく、12月の頭より、営業に係替えになりました。
始めの任務は、住宅ローンのシフト活動でした。
住宅ローンの“シフト”とは、“借り換え”“肩代わり”を意味します。現在、他の金融機関で住宅ローンを借りている人対して、「当行で、より安い金利で住宅ローンの借り換えをしませんか。毎月の返済額減りますよ」という寸断です。 


例えば、残債2,000万、期間20年、変動金利2%、毎月返済額101,177円の人が、2,060万(手数料込)、期間20年、変動金利1%で借りなおしたとします。計算すると、毎月返済額は101,177円→94,738円(月6,439円、1年で77,268円の節約)、20年間トータルの返済額も、24,282,400円→22,737,175円(20年で1,495,225円の節約)となります。現在はゼロ金利政策をとっているので、10年前に比べて金利が大幅に安くなっています(一般に、住宅ローンの変動金利は国の政策金利と動きを同じくします)。ですので、借り換えにより大きくメリットのでる家庭が多いのですね。


シフトの推進方法は大きく2種類あります。一つ目は電話セールス。銀行に口座がある人は、必ず年齢、住所、連絡先の電話番号等を一緒に登録しています。その情報を基に、セールスリストを作成し、電話をかけます。例えば、“30-40代の主婦層リスト”を作成し、ひたすら電話をかけまくります。
二つ目は飛び込み営業。ねらい目の分譲地をリストアップし、ピンポンをして営業します。例えば、“10年間にできた分譲地の住所リスト”を地図等から探し、直接訪問します。不在ならば何度も何度も、ポストにビラと名刺を入れ続けます。午前中在宅している主婦の方から話がつながることもあれば、夜遅くに分譲地を訪れ、仕事帰りのサラリーマンに直接面談をお願いすることもあります。冬場は死にます。


「○○銀行の△△と申します。この地域の担当をしておりまして、主に住宅ローンの借り換え等を皆様にご提案しております。失礼ですが、現在住宅ローンはお組みでいらっしゃいますか・・・そうですか!現在、金利が過去最低のところまで下がってきておりまして、当行でお組みなおしすることで、月々の返済が1万円以上節約できるかもしれません。今毎月府どれくらいお支払いされていらっしゃいますか・・・それは結構な出費ですね。安くなれば嬉しいですよね。そこで奥様、住宅ローンの返済のご予定表に見覚えはございますでしょうか。そちらのコピーを一枚いただければ、実際お借り替えされた場合にどれくらいメリットがでるのか、試算表とともにわかりやすくご説明ができます。お探し願えますでしょうか」


このようなセールスをします。「住宅ローンの返済予定表をもらう→試算表を作る→試算表提示、提案→応諾→申込書類受領→審査通過→契約(と同時に、先方銀行でのローン完済手続き)→住宅ローン実行」の流れで完結します。トータルで2週間の短期決戦です。お客様の熱が冷めないうちに、すべてを終わらせるべく、スケジュール管理は慎重に行います。 

 

 

―「こんな夜遅くに来て、迷惑だと思わないのですか!○○銀とは取引はありません!二度と来ないでください」―

 

シフトのセールスは、非常に根気のいる作業です。現在、共働きの家庭が増えてきているせいで、電話をしても誰もいない家庭が半数以上を占めます。たとえ電話がつながったとしても、辛い反応をされることが多々あります。当行で住宅ローンを組んでいないということは、すなわち当行をメインで使用していない方々です。「なんでそんな取引してない○○銀行がうちにくるの」という冷たい反応をされることが多いです。
それでも、案件のネタを持ってくるためには、なんとしてもお客様と会い、お話の機会を頂戴するしかありません。どうしても昼間に会えない夫婦には、夜にピンポンして会いにいくしかありません。

時は1月の凍えた夜。20時くらいに、私はミニ分譲地に車を留め、一軒一軒インターホンを押して回りました。


「夜分遅くに失礼いたします。○○銀行の△△と申します。この地域の担当をしておりまして、ぜひごあいさt」 


「こんな夜遅くに来て、迷惑だと思わないのですか!○○銀行とは取引はありません!二度と来ないでください」 


「大変失礼いたしました」


その時点で心が折れてしまい、自分でもわかるくらいに背中を丸め、営業車に乗り込み、誰もいない支店の駐車場に戻りました。

 

翌日、午後の3時くらいに、副支店長に応接に呼ばれました。


「お疲れさま。ところで、○○さんって、知ってるか?」


「昨日、シフトで回った先です」


「本部に苦情の電話がきたそうだ。夜遅くに回るのは失礼極まりないと。一応、菓子折りもって玄関において来い。」


元々が当行のファンでない方が多いため、このようなクレームは日常茶飯事です。こんなものに負けてはいられません。
早く返済予定表をもらえるように、頑張らなくては・・・ 


~次回⑧ローン営業編Ⅱへ続く

 

※この物語はフィクションです。