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若手地銀マンの安定ライフ⑩~預かり営業編Ⅰ~

「全国転勤なし」「高給」「地域No.1ブランド」「絶対につぶれない」―地方に根ざし、安定した(加えて、ちょっとだけ良い)生活を送れる就職先として名高い、地方銀行。しかし、銀行で具体的にどのような仕事をするのかについて、具体的なイメージを持てる方は、実は多くないように思えます。

このシリーズでは、新卒で茨城の地方銀行に入社した筆者が、安定した生活を得るまでのストーリーをご紹介していきます。

 

■前回までのあらすじ

 

ようやく住宅ローンシフトの初実行を終えた。翌日から新しい期が始まる・・・そこでいわれたのが「預かり資産の営業もやれ」との指示であった。

・・・「預かり資産」って、なんだ・・・?

 

―「え?元本保証じゃないの?じゃあ結構です」―

 

預かり資産とは、国債投資信託、生命保険など、銀行が窓口になって販売する金融資産のことです。例えば、個人が銀行の窓口で国債を買ったとすると、銀行の預金口座とは別の口座に入れて、銀行が「預かっている」という認識になります。

現在、銀行内で「預かり資産」と話すときは、その多くが「投資信託」「生命保険」を指します。それらを銀行の預金者に販売することによって、投資信託であれば投資の運用会社、生命保険であれば保険会社から代理店手数料を貰えます。それが、支店の収益、銀行の収益となるのです。

投資信託」とは、いわゆる「株のパッケージ販売」のようなものです。個人から少しずつ資金を集め、集まったお金をプロの投資家(投資運用会社の人間)が色々なもの(株、債券、不動産など)、国や地域(日本限定、先進国、新興国など)に分散投資をしながら運用します。そして、運用がうまくいけば、最初に出した金額に応じて、個人に還元する、という仕組みです。

分散投資をすることで、投資のリスクをコントロールすることができます。例えば、トヨタ自動車の株のみ保有していると、トヨタが潰れたとき(実際はそう起こりえないでしょうが)、持ってる株の価値は吹っ飛ぶことになります。しかし、トヨタとホンダと日産を少しずつ持っていれば、トヨタが吹っ飛んでも、ホンダと日産が無事なら損失は限定されます。

故に、「何をパッケージに入れるか」によって、商品が差別化され、それらは「ファンド」として販売されます。日本国債に99%投資しており値動きが少ないファンドもあれば、新興国の株式にがっつり投資して値動きが激しいファンドもあります。それらのファンドの中から、お客様が好きなものを選んで、少額から投資することになります。

分散投資」「少額投資」「プロの投資家による運用」が、投資信託の売りであり、投資未経験者や、リスクをある程度抑えて運用したい人には最適な商品といえます。

 

一方「生命保険」は、「誰かが亡くなったときに保険金が下りて遺された人の力になる」という商品です。その意味で、資産を「遺す」という要素が強い商品でした。しかし現在では、満期があって、100万円一時払いして、10年後に110万円になって戻ってくるような、「個人年金保険」、100万円一時払いして、そのお金を保険会社の人間が一部運用し、運用がうまくいけば2-3年で換金されるような「変額一時払保険」など、資産を「増やす」機能に特化し、資産形成の一手段として設計される生命保険が増加しています。

 

投資信託も生命保険も、資産を増やせる可能性がある一方、元本割れの可能性のある商品となります。いわば「リスクがある」のです。そのため、銀行がリスクのある商品を販売することに抵抗を覚えるお客様もいらっしゃいます。

 

さて、銀行の支店には、この「預かり資産販売による手数料収益」のノルマが本部より振られてきます。支店に振られてきたノルマは、一人ひとりの営業担当、及び銀行の「資産運用窓口」業務に携わる女性行員に振られます。そのため、我々は預金者に電話をして、「投資をしませんか」というセールスをしなければなりません。それもただの預金者ではなく、口座にたくさんお金のある方がメインターゲットです。収益は、「投資金額×〇%」の計算式ではじかれます。投資信託であれば2~3%、保険ですと、リスクの低い定額保険は0%台、リスクの大きい変額保険は、7-8%に至るものもありました(最近は金融庁により「手数料率を開示しろ」というプレッシャーが来ている関係で、4%ぐらいに“下がった”銀行もあるとのことです)。

 

営業担当は、預金が多くある個人のお客様のところに、ひたすら電話セールスをします。口座を作るときに必ず電話番号を用紙に書きますので、電話番号はわかります。電話番号がつながらなくなっていても、電話番号案内「104」に電話し、何としても電話番号をサーチします。それでも電話番号がつながらなかった場合は、訪問してでもアポイントを取ろうとします。

 

「○○銀行のchiginです。いつもご利用いただきありがとうございます」

「どうも。なんの用?」

「日頃のお取引のお礼をまず申し上げたく電話いたしました。多くのご預金お預け入れいただき、誠にありがとうございます。ところで、ご預金の使い道はお決まりでいらっしゃいますか?」

「特にないけど」

「現在低金利で、かつ物価も上がっている中、預金の価値がどんどん目減りしてしまっております。そこで、預金以外にも、より利回りのつく商品がございます。ご挨拶もかねて、ご紹介させていただきたいのですが、○○様は午前と午後だとどちらの方がご自宅にいらっしゃるお時間が多いでしょうか」

「午後かな」

「そうしましたら、もしご迷惑でなければ、明日、もしくは明後日の午後、ご挨拶に伺わせていただいてもよろしいでしょうか」」

「明日ならいいよ」

「13:00頃でよろしいでしょうか」

「そうだね」

「ありがとうございます。それでは明日13:00に、私chiginがお伺いいたします。お会いできるのを楽しみにしております!」

 

以上がモデルケースとなります。そして直に訪問し、セールスを開始します。

 

ところで、電話口でよく来る質問が、

 

「それって元本保証なの?」

 

というものです。元本保証ではありません。そこで、

 

「値動きはありますが、長く持てばリスクが減るようなものもございます」

 

などとごまかします。これで納得していただければいいのですが、大体は

 

「え?元本保証じゃないの?じゃあ結構です」

 

となり、電話口で破断になります。20件中19件は破断になるため、とにかく無心に電話セールスする必要があります(例え最初は断られたとしても、人や時間を変えて追いかけます)。

 

 

「アポイントゼロ?てめえ何して給料もらってんだ?ああ?アポとれるまで変えるんじゃねえぞ?」

 

今ではすんなりとセールストークが出てきますが、最初はそうもいきません。chiginは当初、一日50件近く電話をかけていましたが、アポイントはうまく取れません。アポイントが取れないようなら、夕会での詰めが待っています。

 

「次、chigin」

 

「電話件数50件、有効面談10件、アポイントは・・・ゼロです。申し訳ございません」

 

「アポイントゼロ?てめえ何して給料もらってんだ?ああ?今日はアポとれるまで絶対に帰るんじゃねえぞ?」

 

詰められた夕会の後の記憶はありません。只々恐怖心を抱えながら、全身から冷や汗を吹き出しながら、受話器に向かってセールスを繰り返すだけになり、気づいたら家についています。この頃から、あくびをしたときなどに、顔の右側がつるようになりました。

 

勿論、住宅ローンの目標も抱えています。預かり資産と住宅ローン、両方とも数字を上げなければなりません。2年目のプレッシャーは、量質ともに、1年目の比ではありません。

 

このまま、やっていけるのでしょうか・・・

 

 ~次回⑪預かり営業編Ⅱへ続く

 

※この物語はフィクションです。